
FabCafe Osaka
地域のクリエイターたちと共創を通じたものづくりを行うクリエイティブネットワーク FabCafe の大阪新拠点の設計。
各地のFabCafeでは、カフェ内に3Dプリンターやレーザーカッターといったファブリケーション機器を設置し、ものづくりへの入口となるような活動や、その地域ならではの素材や技術、テクノロジーを活かしたプロジェクトを展開してきた。
株式会社ロフトワークが新たに設けた FabCafe Osaka は、形式に縛られない美しさを追求する近代から現代の美術思想「L’Informe(アンフォルム)」をテーマに掲げ、「形を持たないもの」や「移り変わるもの」にまで視点を広げたファブリケーションを体験できる場として構想された。


計画地は、かつて自動車整備工場として使われていた場所だった。中央には整備用の地下ピットがあり、鉄骨のブレースや、増改築の繰り返しによって生まれた壁の凹凸、露出したスイッチプレートなど、特徴的な設備が残されており、これらをFabCafeの空間としてどのように引き継いでいくかを考えながら、設計を進めた。


「アンフォルム」というテーマと、蒸留などのかたちを持たないものを扱う新たなFabCafe Osakaの空間がどうあるべきかについて議論を重ねる中で、「土」という素材がよいのではないかと考えるようになった。土は定まった形を持たず、無機物と有機物の混合物。そして、大阪の土地は淀川が運んでくる土の堆積と侵食を繰り返すことで形成されている。
今回は、大阪市の2か所の浄水場から入手した浄水発生土を、壁面の吹付け素材と床の仕上材として活用した。→浄水発生土について

地下ピット部分には、店舗の中心となるような大きなテーブルを計画し、「飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」(株式会社ロフトワーク・株式会社トビムシ・飛騨市が出資して設立)と共に進めた。
広葉樹林に見られる「さまざまな樹種が異なる生育条件や生存戦略を持ち、明確な境界を持たずに曖昧に関係し合い、常に移ろい続けている状態」は、「かたちに縛られない美しさ=アンフォルム」という、FabCafe Osakaが目指す価値観とも繋がっている。→飛騨の広葉樹林について
大阪という土地における、堆積と侵食の反復による流動性と、都市の一角にある建築が内包する「場所の記憶」への思索の重なりから、FabCafe Osaka の空間は生まれている。飛騨の広葉樹は、まるで移ろいの化身のような存在として、ここへと流れ着き、同じように流れ着く人々を迎える。
これからこの場所で積み重ねられていく出来事のひとつひとつも、「場所の記憶」の一部として堆積し、感性を刺激する豊かな土壌となっていってほしい。














施主 : 株式会社ロフトワーク
プロデュース : 株式会社ロフトワーク 小島和人
プロジェクトマネジメント : 株式会社ロフトワーク 太田佳孝
クリエイティブインサイト : 株式会社飛騨の森でクマは踊る 今井瑞紀
施工 : 株式会社嵩倉建設 林雍浩、木村晃子
広葉樹家具製作ディレクション : 株式会社飛騨の森でクマは踊る
広葉樹家具詳細設計 : 株式会社飛騨の森でクマは踊る 黒田晃佑
広葉樹家具構造アドバイザー : 合同会社円酒構造設計 円酒昂
空調換気設備設計 : 合同会社T2設備設計 徳岡崇
照明計画 : 株式会社遠藤照明 山本桂右
撮影 : 大竹央祐