
β Hommachibashi
大阪市内を流れる東横堀川沿いの緑道に建つ、水辺の実験基地“β本町橋”を設計した。
東横堀川は、頭上を高速道路が覆うため、川に背を向ける街並みが定着しており、水都大阪再生の動きからも一歩遅れた場所であった。そんな状況の中でも、2006年からスタートした地域の有志による地道な活動と行政へ向けた様々な提言によって、河川沿いの緑道の再整備、船着場の設置等が進み、2021年に大阪市との協定に基づく民間事業によって建設された公園施設がβ本町橋である。事業にあたっては、東横堀川の水面も活用した水上事業の展開が行政から求められた。
計画は、前述の東横堀川周辺のまちづくりに携わってきたチームを中心となって進められ、舟運事業やSUP体験の提供など、複数の事業主体が関わるパブリックな拠点となるよう構想された。名称に含まれる“β”には、「未完成であり、常にアップデートされ続ける場所」という思いが込められている。

設計にあたっては2つの点が求められた。
一つは、「地域の生活の延長にある施設でありたい」ということ、もう一つは、「新たな試みが行われ続ける実験基地でありたい」ということだった。一見対立するようにも思われるこれらの理念が、同時に実現する場を作ることを目指して設計を行なった。
街と水面の間にある公園に面した1階では、川へと斜めに向かう公園内のスロープのラインと並行にピロティを設けることで、街の延長として建築を位置付け、断面計画でも公園レベルと道路レベルからの動線と、視線の抜けに配慮することで、街と川の両方に開かれた建築とした。

建築は、まちの日常に寄り添う柔らかさを備えた場になることを意図し、木造を採用している。法規上、耐火構造が求められるが、現しとなる躯体は耐火層の外周を吉野杉で仕上げ、木の質感と温もりを空間に取り込んでいる。
架構は、木材の構造特性に基づき、4.35mおよび3m×3mを基本とした均一な格子構成とした。これは、住宅と同じ流通サイズの木材によって在来工法で施工可能なものであり、長く汎用的に使える空間であると同時に、コストの合理性や施工性にも配慮している。

また、使い方に汎用性を持たせるため、柱梁はシンプルな架構としつつ、各々の柱に少しだけ逸脱や個性を与えることで、利用者に想像の余地を残す大らかな場所の作り方を心がけた。柱を中心に集まる、柱の周りを回遊する、複数の柱が囲う、柱によって柔らかく区切られる。それらの使い方が重なり合い、活動に合わせて少しずつ境界が変化しながら、異なる目的で過ごす人々が同時にいることを許容できる場所となっている。
柱梁には吉野杉によって柔らかな表情を持たせながら、エキスパンドメタルやアルミといった金属素材を組み合わせることで、実験基地としての自由で気軽な雰囲気を与えつつ、都市の質感ともなじませた。
つくりこみすぎない設えと、木造の柱のまわりに生まれた小さな居場所の集まりによって、地域の人々が立ち寄るいつもの場所となりつつある。



















施主 : 大希産業株式会社
構想・運営 : 一般社団法人水辺ラボ
共同設計 : 髙橋勝建築設計事務所 髙橋勝
構造設計:アトリエSUS4 能戸謙介
設備設計:T2設備設計 徳岡崇
グラフィックデザイン:sato design 佐藤大介
施工:嵩倉建設 林雍浩、木村晃子、渡辺翔太
撮影 : 山田圭司郎、髙橋菜生